SIMON BORG-OLIVIER @YOGA SYNERGY: ヨガの解剖学

Posted on 11月 1, 2007 Under 記事
シェアする:

ヨガ(統合という意味)の究極的にめざすところ、それは、自己の意識は万物の意識と一体となっているという、悟りに達することです。それは、とてつもなく高い目標でなかなか到達できるものではありません。比較的短期間でも達成可能な目標としては、ヨガを通じて脳と身体のコミュニケーションを最大限に高めるということが挙げられます。そこで、ヨガの解剖学の視点から、ヨガで達成できること、ヨガの与える効果への理解を深めれば、最も効果的にヨガを実践できるようになります。

脳と身体のコミュニケーション

脳と身体のコミュニケーションが円滑に行われていれば、健康は増進し、活力も向上し、怪我の治癒力も高まります。人間の体内では、エネルギー(プラナ)と情報(シッタ)がその循環回路を巡ることで、主なコミュニケーションが行われています。ハタヨガとは、古代インドのヨガ科学の身体を通して行うヨガの形で、身体を動かすことにより、脳と身体を統合し、そのコミュニケーションの円滑化をはかるものです。

逆伸張反射(弛緩反射)

筋肉をストレッチしていると、適度な伸展域に達したときに、筋肉が弛緩することを、逆伸張反射(弛緩反射)と呼びます。この効果を得るには、通常12~15秒くらいかかりますが、筋肉を伸展状態で2、3秒以上緊張させると、数秒で筋肉はリラックスして緩みます。そのため筋肉を伸展状態で緊張(収縮)させると、筋肉が強化するだけでなく、普通にストレッチするよりかなりの長さまで伸び、続いて弛緩しやすくなります。  たとえば、足を組んだ姿勢での前屈ポーズ(写真1,2)を行うとき、主にストレッチされるのは股関節伸筋(臀部筋)です。このポーズで、逆伸張反射の効果を迅速に得るには、臀部を緊張させるか、または股関節を屈曲させた姿勢のままで伸ばすようにして、股関節伸筋を緊張させるます。胡坐をかく姿勢からの前屈には、足の裏を床に押し付けようにすれば、効果が得られます。

写真1:実践例:股関節伸筋ストレッチー胡坐ポーズからの前屈

写真2:上級レベル股関節伸筋ストレッチーロータスポーズからの前屈バランス

このほか逆伸張反射を利用したポーズに、ランジ、または股関節屈筋のストレッチがあります(写真3)。ランジでは、両足をくっ付けるように、あるいは足裏を床に押しつけるようにすることで、股関節屈筋を伸展し、その伸展した状態で緊張させます。この動きにより逆伸張反射が働き、股関節屈筋をすばやく効果的にストレッチでき、また増強をはかることもできます。さらにストレッチの後、筋肉が容易に弛緩できるようになります。同様の効果を利用したより複雑なポーズには、写真4の「上級レベルランジバランス」があります。

写真3:実践例:股関節屈筋ストレッチー立位ランジポーズ

写真4:上級レベル股関節屈筋ストレッチーディープランジのバランスポーズ

ヨガのバランス

ハタヨガのテクニックを習得すれば、やがて、どの筋肉も自由に緊張(収縮)させたり弛緩させたりできるようになります。年を取るにつれて、人間の身体は、柔軟性を増す代わりに、安定感のなくなる部分もあれば、可動性を失い、硬直してしまう部分も出てきます。ヨガでは、それぞれの筋群をバランスの取れた状態に保つことにより、主要な関節複合体のいずれもが、均等に力を発揮できるようになることを目的としています。

ヨガを行う際には、それぞれの関節複合体の状態により、短縮した筋群や伸展した筋群を、それぞれ収縮させるか弛緩させるか選びながら練習できます。ヨガの熟練者は、以下の4種類の筋肉の収縮と弛緩の状態から、容易に適切なものを取り入れ、関節複合体周囲の力のバランスを保つことができます。

 

状態1:短縮した筋群、伸展した筋群、ともに弛緩した状態。身体的に楽な状態ですが、伸張反射により、伸展した筋肉から抵抗を感じやすく、関節複合体に安定感が加わらない。

筋肉の痙攣などの特別な状態においては、対立筋(主導筋と拮抗筋)をどちらも完全に弛緩状態にし、少しずつ時間をかけて伸展状態を保持していくとよいでしょう。そうすると、伸張反射に逆伸張反射が取って代わるからです。これは、比較的容易で心身ともにリラックスすることができます。

状態2:短縮した筋群が収縮し、伸展した筋群が弛緩した状態。短縮した筋肉が強化し、相反性抑制反射の誘発により、伸展した筋群をより容易に引き伸ばすことができます。

関節複合体の片側に凝りや痛みがある場合は、反対側の拮抗筋群を収縮させることにより、緩和させることができます。痛みや炎症が関節複合体のいずれの側に発生した場合にも、この方法で緩和させることができます。

状態3:伸展した筋群が収縮し、短縮した筋群が弛緩した状態。伸展した筋群を伸ばした状態で強化でき、伸張反射が誘発されるため、伸展した筋群が更に引き伸ばされ、その後、弛緩しやすくなります。また短縮した筋群に相反性抑制反射が誘発され、弛緩を促し、厄介な痛みの原因となる凝りを解消してくれます。

緊張してこわばったり、ひどく凝った筋肉は、関節痛の原因ともなりますが、伸展した状態で意識的に収縮させると、収縮後に筋肉はリラックスして緩みます。さらに筋肉の適当な部分に圧力をかけて伸展を深めると、より効果が高まります。

状態4:短縮した筋群も伸展した筋群も収縮(緊張)した状態。この状態は、関節複合体を安定させ、血行を促し、筋力と柔軟性をともに向上させ、どの筋肉も弛緩してリラックスしやすくなります。

関節複合体に安定感を欠く場合、その関節を囲む対立筋(主導筋と拮抗筋)を同時収縮(同時緊張)させることにより、関節を強化して安定感を増し、周辺の血行を促すことができます。さらにヒーリング効果も向上します。

筆者のサイモン・ボルグ・オリビエとビアンカ・マチリスは、ともに理学療法士であり、ヨガシナジーのディレクター兼シニアインストラクターを務めています。ヨガシナジーでは、伝統的なハタヨガを、運動系理学療法に基づき、現代人や西洋人の身体に適した方法で教えています。

ホームページ: https://yogasynergy.com

2007年10月(2006年12月 Well Being Magazine 107)


About the Author

サイモン・ボルグ・オリビエ

解剖学&生理学 | MSc BAppSc | 理学療法士 | Yoga Synergyディレクター

「ヨガの解剖学と生理学」の共著でもあり、これはメルボルンのRMIT大学のコースやレクチャーにて使用されている主な文献でもある...